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(中央大学クレセント・アカデミー)


体験受講レポート「グリム童話200年の秘密」
(中央大学クレセント・アカデミー)

 こんにちは、セカンドアカデミー・スタッフの米川です。
 2012年6月7日(木)、中央大学多摩キャンパスにて、 中央大学クレセント・アカデミーの講座グリム童話200年の秘密を受講してきました。
 その受講体験記をご紹介します!


グリム童話発刊から200年!

 今年、2012年は、グリム童話初版の発行(1812年)から200周年にあたります。
 「グリム童話 200年」で検索してみると、学術的な講演会から、図書館でのお話会まで、様々なイベントがヒットします。そして、それらの情報に目を通してみると、「童話」の裏側には、様々な要素が隠されていて、子どもの頃の絵本のイメージはきわめて表層的なものであることがわかってきました。
 そこで、今回は、中央大学クレセント・アカデミーで開講中の「グリム童話200年の秘密」の第3回講義を聴講してきました。

 講師は、ドイツ文学者で、日本グリム協会の副会長としてグリム童話の研究・普及活動にも従事されている天沼春樹先生です。

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(写真)天沼春樹先生

 講義の導入は、企画に携わられている落語会の案内と、古典落語「死神」が、もともとはグリム童話の「死神の名付け親」をもとに生み出されたものだという、目からウロコのお話でした。これからの一時間半、どんな講義が伺えるのかと、興味が高まります。


『赤ずきん』と「オオカミ」

 童話、昔話というと、日本でも海外でも動物がつきもの。キツネ=ずる賢い、クマ=恐ろしいがどことなく間抜け、オオカミ=悪役、といったように、ある程度固定化されたイメージがあります。
 これは、キャラクターを際立たせるための手法で、様々な人間像を投影しているのだそうです。
 そして、今回の講義は、その動物の中でも強力な存在感を持つ「オオカミ」と、オオカミが重要な位置を占める『赤ずきん』のお話にフォーカスして進められることになりました。
 ちなみに、『赤ずきん』はグリム童話の中では最も絵本化されていて、ドイツには専門で蒐集している博物館もあるのだとか。驚きですね!

~グリム以前とグリム以後~

 グリム以前と、グリム以後では、『赤ずきん』の筋立て、オオカミの役回りに大きな違いがあります。
 グリム以前の『赤ずきん』、あるいはそのもととなった、村娘がオオカミに襲われる民話においては、村娘が助かるものはほとんどないのだそうです。
 同様の寓話がイタリアからフランスにかけて分布し、フランスにおいては30余りも伝わっていながら、オオカミから逃げおおせるものは、なんと1つだけ。ほかは、オオカミがおばあさんをシチューにしてしまい、村娘もそれを口にしてしまうというカチカチ山と同じような展開をたどった上で、結局はオオカミに食べられ、それでおしまいといった結末なのだとか…。
 なんとも救いのない話ですね。
 しかし、グリム兄弟は、我々がよく知る、赤ずきんもおばあさんも助かる結末へと、筋立てを変更したのです。

~グリム兄弟の意図~

 赤ずきんとおばあさんが、猟師によってオオカミのお腹の中からも助けだされるという結末。これは同じグリム童話の『オオカミと七匹の子ヤギ七匹の子ヤギ』のプロットがそのまま使われています。
 グリム兄弟が、なぜ元となった寓話にこのような改変を施したのか。これについては様々な見方があるそうですが、一つには、近代人であるグリム兄弟が「復活して、打ち克つ」という価値観や、人間の自然への優位性を重んじたため、という考え方が紹介されました。
 グリム兄弟は、改変という意図をもって寓話を書き換えていったのではなく、寓話の隠された部分、欠けた部分を「復元」するという感覚で、手を加えていったのだそうです。つまり、グリム兄弟が行ったのは、寓話が作られた当時の価値観と、当時の価値観の差を埋めていくという作業だったのです。

~オオカミの正体~

 本来は、クマやイノシシに比べ、実際に人に被害を与えることの少ないオオカミが、なぜもこう悪役にされるのか。それは、今でいう変質者、異常犯罪者の行いが、当時は、人ではなく獣の為すことと考えられ、人が獣になる=人狼、というイメージから、寓話における悪役がオオカミとなっていったということです。
 『赤ずきん』のもととなった寓話は、残酷な事件を語り伝えたり、用心を促すためのものだったのですね。

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(写真)様々な年代の方が参加されていました


受講しての感想

 『本当は恐ろしい〇〇』といった本が一時期流行ったこともあり、なんとなく聞きかじったことはありましたが、改めて、『童話』の由来や背景について、今回の講義のように体系立ったお話を伺うと、その奥深さに新鮮な驚きがありました。
 また、『グリム童話』というと子ども向けの楽しげな雰囲気が漂うものの、そのおおもととなった寓話(メルヒェン)は、日本でいえば、地域の言い伝えや伝承のような、どちらかというと重苦しい雰囲気のものであることを知って、幼いころから親しんだ他の童話や昔話の由来はどのようなものかと、がぜん興味が湧いてきました。

 加えて、これまでは、社会科学や実学系の講座を受ける機会が多かったのですが、それらの分野に比べ、大学の講義のエッセンスに触れられるという醍醐味が、とても強く感じられることに気づきました。
 社会人向けの様々な学びの場がありますが、アカデミックな切り口から文学作品を楽しめるのは、大学の公開講座ならではですね。

 今回の講座は、秋期にも開講されるそうですので、みなさんもぜひこの面白さを味わってください!

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(写真)講義後にご著書とともに


【中央大学クレセント・アカデミーについて】

 永らくメインキャンパスだった駿河台の地にある駿河台記念館と、現在のメインキャンパスである多摩キャンパスの2カ所で、年間100余りの講座を展開しています。
 文学や芸術など教養系の講座に加え、多摩キャンパスの充実した施設を活用した各種スポーツ講座も開講されています。

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(写真)多摩キャンパス
「中央大学・明星大学駅」からキャンパスに入ってすぐのガラス張りの建物です

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(写真)多摩キャンパス
教室が配置されている2Fは、中庭に面した開放的な空間になっています


(リンク)中央大学クレセント・アカデミーの講座一覧
 → 駿河台記念館
 → 多摩キャンパス

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