どうしてイギリスの偉人の中で2番目がブルネルなの?
【第4回:どうしてイギリスの偉人の中で2番目がブルネルなの?】
どこの国でも歴史上(場合によっては現存者も含めて)の有名人物の人気投票が行われているようです。日本でもテレビのバラエティ番組で、視聴者の投票で、有名人のランキング付けをしています。ここには外国人も含めて上位10名がリストアップされています。
1.織田信長
2.坂本龍馬
3. エジソン
4.豊臣秀吉
5.松下幸之助
6.徳川家康
7.野口英世
8.マザー・テレサ
9.ヘレン・ケラー
10.土方歳三
もともと時代やジャンル、さらに外国人もまじえて、さまざまな有名人物を比較して評価するということは無茶な話かもしれません。厳密な基準などというものはなく、単なる好感度の比較にすぎない、と言えるでしょう。たまたまその時はやった長編ドラマの主人公が上位にランクされるということもあるでしょう。先のテレビ番組では、さらに「美女」、「天才」、「英雄」などにジャンルを分けてそれぞれ100名をリストアップしています。
さて、イギリスではBBCが視聴者の投票をもとに100名の偉人のランキングづけを行っています。2002年11月のBBCの調査結果を、とりあえず、上位10番まで名前をあげておきます。
1. ウィンストン・チャーチル
2. イサムバード・キングダン・ブルネル
3. ダイアナ妃
4. チャールズ・ダーウィン
5. ウイリアム・シェークスピア
6. アイザック・ニュートン
7. エリザベスⅠ世
8. ジョン・レノン
9. ネルソン提督
10. オリヴァー・クロムウエル
以上の10名のうち、2位のブルネル以外の9名についてはほとんどの人はご存知だと思います。3位のダイアナ妃、8位のジョン・レノンは言うまでもなく、あとの7名は必ず世界史の教科書に出てきます。1番のチャーチルはいうまでもなく第2次世界大戦で、イギリスを勝利に導いた人物です。ビッグ・ベンの前には、チャーチルの大きな銅像が立っています。まさに救国の大偉人であることはいうまでもないでしょう。問題は、第2位のブルネルについて、日本人のなかでどれだけの人がご存知かと言うことです。
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<ブルネル> | <G.スティーブンソン> |
ブルネルは鉄道の技術者であり、橋の建設や船の建造でも名前を残した人物です。彼の父は、優秀なフランス人の技術者で、テムズ川地底のトンネル工事に従事していました。ブルネルは、イギリスで生まれましたが、14歳からフランスに渡り、カン大学で教育を受けています。彼は1826年に父が完成させたテムズ・トンネルの副技師となり、その後1833年にロンドンのパディントン駅から西方に延びる、グレート・ウエスタン鉄道の主任技師としてその建設を任された。彼は、従来のイギリスの伝統にとらわれない新しい発想で鉄道建設に臨んだ。すなわち、安定した、高速輸送のためには、できるだけ幅の広い軌道が望ましいと考えて、7フィートいう幅の広いゲージ(軌間)を採用したのである。
ところが、すでにイングランド北方で建設が進んでいた鉄道、例えば、ストックトン・ダーリントン鉄道(1825年開通)やリヴァプール・マンチェスター鉄道(1830年開通)では、4フィート8½インチが採用されていた。これはそれ以前の炭田地帯で採用されていた馬車鉄道のゲージであり、その後の世界の標準ゲージとなるものであった。この二つの鉄道の建設に携わったのが、ジョージ・スティーブンソンであるが、彼は最初の蒸気機関車のロコモーション号やロケット号の発明でも有名な人物である。
イギリスでは1830年代の鉄道ブームで主要都市が鉄道で結ばれ、40年代に入ると、主要鉄道同士が支線の拡張をめぐってはげしく争うことになります。そこで急浮上したのが、ゲージの問題です。鉄道はネットワークとして発展しなければ意味をなしません。会社が違うからといって、しょっちゅう乗り換えをしなければならないとすれば大変不自由です。そこで、ゲージの統一の話が持ち上がります。ブルネルの7フィートのゲージと、スティーブンソンの推進していた4フィート8½インチの1のゲージと、どちらを標準とするか、議会で大きな論争となりました。1844年に、どちらのゲージに統一するか調査委員会が設置され、議会で論争が行われました。その結果は、スティーブンソンの4フィート8½インチが標準ゲージと決められ、ブルネルの進めた7フィートのゲージは敗退することになったのです。すでにこの時点で、スティーブンソンのゲージは、イギリス全体の87%を占めており、圧倒的に優勢あったと言うこと、それに広いゲージには、3本目のレールを敷くことによって狭いゲージに転換することが出来るが、その逆は無理である。橋やトンネルの作り変えは現実的ではなかったと言えます。いわば、当然の帰結と言えるでしょうが、グレート・ウエスタン鉄道をはじめ広軌を採用していた鉄道からは最後まで強い抵抗がありました。私はこのような意味で、ブルネルはイギリスの鉄道史上ではステーブンソンと比べるとあまり評価されない、と考えます。また、スティーブンソンは、イギリスの技師協会(Institute of Mechanical Engineers)の初代会長であり、またかって5ポンド紙幣にその肖像画が印刷されてもいました。
にもかかわらずブルネルがイギリスの偉人の第2位と言うのはどうしてでしょうか。ちなみに、スティーブンソンは、65位というランキングです。二つの理由が考えられます。一つは今でもイギリス人の中には、グレート・ウエスタン鉄道に対する強い郷愁があると言うことです。たしかに、グレート・ウェスタン鉄道の7フィート・ゲージはイギリス鉄道史から消えてしまいましたが、しかし今でもロンドンから西方に、豊かな田園地帯を通過してバース、ブリストルに至る路線は、王者の風格を持っています。有名なターナーの鉄道の絵も、このグレート・ウエスタン鉄道が描かれています。いまでも、パディントン駅にはグレート・ウェスタン鉄道関連の本やみやげ物などが売られています。
二つには、ブルネルを強く推薦した人は、ジェレミー・クラークソンと言う、有名なジャーナリストでかつテレビ司会者でした。彼の家は貧しく、両親がパディントン・ベアというぬいぐるみを考案し、それが大ヒットして、ジェレミーの学費が工面できたようです。その意味で彼はグレート・ウエスタン鉄道には大変な借りがあるのかもしれません。ジェレミー・クラークソンの強いアッピールで、ブルネルが第2位に踊り出た、とも考えられます。しかし、本当のことは分かりません。いずれにせよ、ブルネルがイギリスの偉人の第2位のポジションに居ることは私にとってはいまひとつなぞです。
100人の偉人については下をご覧ください。
http://en.wikipedia.org/wiki/100_Greatest_Britons
なお、ブルネルについては、菅建彦『英雄時代の鉄道技師たち : 技術の源流をイギリスにたどる』1987年を参考にされたい。私はあまりブルネルを好意的に取り上げなかったかもしれない。しかしわが国にも熱心にブルネルを研究されている方もおられることをウェッブで知った。ご参考までに以下を参照。
http://www.jsme.or.jp/tsd/kenkyu/burnel.html
<余談>
アメリカでも類似のランキングが作られているが、それは以下のようである。
1. ロナルド・レーガン(大統領)
2. アブラハム・リンカーン(大統領)
3. マーチン・ルーサー(市民権運動の黒人指導者)
4. ジョージ・ワシントン(大統領)
5. ベンジャミン・フランクリン(政治家。発明家)
6. ジョージ・ブッシュ(大統領)
7. ビル・クリントン(大統領)
8. エルビス・プレスリー(音楽家)
9. オプラ・ウインフリー(テレビ司会者、女優)
10.フランクリン・ルーズベルト(大統領)
これもおかしな順位ですね。リンカーンがレーガンの次に来ていたり、ケネディーが10位に入っていなかったり。何よりも、6位に、現大統領のブッシュがランクされるなんて、信じがたいですね。彼を選んだ当時のアメリカの有権者はあきらかに最高の大統領と思って、一票を投じたのでしょう。
>http://en.wikipedia.org/wiki/The_Greatest_American
(2008年06月27日)