オフィーリア
豊島新聞リレーエッセイ
「オフィーリア」
森山恵(詩人・「イギリス詩を読む講座」担当)
『ラファエル前派展』で、ミレイの「オフィーリア」を見た。シェイクスピアの『ハムレット』からモチーフをとったあの有名な絵画である。絵の前に立つと、「ああ、そうか」と何かが腑に落ちた。
実はシェイクスピアの描く女性にあまり共感できずにいた。子供の頃からそうだ。児童版で読んだ『リア王』など、何と気の滅入る嫌な話なのだろうと思ったし、コーディリアも好きになれなかった。
オフィーリアに対しても、なかなか感情移入できなかった。新潮文庫の古風な福田恒存訳で言えば「尼寺へ行け!」など、酷いことを言われるがままのオフィーリア。もどかしいばかり。同じ年頃の少女として、訳が分からないと思ったものだ。
英文学を専門に勉強するようになり、シェイクスピア作品の素晴らしさには開眼した。台詞は詩であり、音楽だった。それでも子供心に感じた違和感はずっと続いていた。
そしてミレイの絵画「オフィーリア」である。胸にひな菊、パンジー、すみれなどの野の花を抱き、無垢のまま清らかに流れていくオフィーリア。それは一つのヴィジョンなのだ。何かを一挙に顕現化し、世界に差し出している。名指すことのできない普遍的なものが含まれているのだ。オフィーリアの哀しみが急激に胸に迫った。
(2014年02月28日)