詩に似ている
豊島新聞リレーエッセイ
「詩に似ている」
川口晴美(「詩を書こう」講師)
ある人が亡くなった後、その部屋を片付けたことがある。行ってみると、晩年は気力も体力も衰えて整理できなかったらしく、いつも座っていた椅子やテーブルの周りには様々なものが足元から積みあがっていた。ことに紙類は地層と化していて、上から順番に手に取って重要な書類が埋もれていないか確認していくほかなかった。
判読できない走り書きの紙切れ、中身のない封筒、新聞記事のコピー、何かの切り抜き……なぜこれを取っておこうと思ったのか見当もつかない、価値のないものとして捨てるしかないものの堆積。そのひとつひとつが、彼にとってはすぐゴミ箱に放り投げてしまうわけにはいかない、つかのま大切なものだったのだ。でも、本人がいなくなってしまえばそれはもうわからない。仕方ないから全部ゴミ袋に入れながら、ああそうか、他人にとっては無価値な、意味のわからない断片の集積こそが、そのひとがこの世でたった一人の固有の存在として生きた痕跡なのかもしれない、と思った。貯金通帳のように数字に還元できるようなものに、〈生き死に〉の本当の手触りは残らない。
一般化できないもの、意味に回収できないもの、それでも大切な断片の集積。それは詩のありかたにとてもよく似ている。詩は、そんなふうに存在しているのだと思う。
(2014年02月19日)