豊島新聞リレーエッセイ 「孤高の猫」 藤堂りょう
孤高の猫
我家の裏に、公園をかねた小さな林がある。
そこに、野良と思われる大きなとら猫が棲んでいる。ふてぶてしい態度で日溜まりに寝転がり、人が通ると睨みつけるように眼を向ける。近寄れば、その距離のぶん体を移動させるが、尻尾を巻いて逃げるようなことはない。
林で見かけるようになった半年ほど前から、その態度は変わっていない。
ある日の夕方、藪椿の陰から出てきたとらが、足に纏わりついた。体を足首に絡め、喉まで鳴らしている。
なにが起こったのかわからないまま、とらのなすがままにしていた。
暫くするととらは、はっとしたように突然体を硬くして動きを止め、警戒するように一歩、二歩さがって見あげた。いまにも泣きだしそうな顔をしていた。
背中を向けたとらは、肩を落として二、三歩歩くと振り返り、「誰にもしゃべるんじゃねえぞ」というような鋭い眼つきでひと睨みし、歩き去った。
とらが、なぜそんなことをしたのかはわからない。孤高を保ちながらも、むかしの飼い主をふと懐かしみ、人に甘えてみたかったのかもしれない。
とらはいまも林にいる。眼が合うと、「おめえか……」というような顔をして横を向いたり天を仰いだりする。
藤堂りょう
(漫画家・イラストレーター・淑徳大学公開講座「和紙でふわふわ猫を描く」担当)
→ 講師関連講座(2013年度春夏期)
「和紙でふわふわ猫を描く」
2013年4月5日(金)・開講
(2013年02月04日)