豊島新聞リレーエッセイ 「小春日和」 山田喜美子
小春日和
小春日和というと、秋も深まった頃、木枯しがふと止んで、おだやかな日差しが野山や街を包む、そんなイメージでしょうか。正確には、立冬後の好天を言うので、冬の季語です。木の葉も少しずつ減り、木の間をもれる日の光がふえて、光もひと月前より格段に優しくなっています。
「小春」が初めて日本の文献に表われるのは、鎌倉時代末の『徒然草』で、季節の移り変わりを描写した章段に「十月は小春の天気」とあります。この十月は陰暦です。ちなみに、六世紀中国の歳時記に「十月の和暖にして春に似るを小春と言う」と記されています。
『徒然草』の著者兼好法師は、これを知っていたのでしょう。
時代は下って、十七世紀の芭蕉は、若い頃「月の鏡小春にみるや目正月(めしょうがつ)」という句を詠んでいます。月で秋、小春で冬、正月で春と、三つの季を詠み合せたのが眼目。
女性の名前にも「小春」はあって、『心中天網島』のヒロインが小春。また往年の村田英雄のヒット曲「王将」でも坂田三吉の糟糠の妻も小春で、「愚痴もいわずに女房の小春」と歌われました。心やさしい穏やかな女性は、男性の理想でしょうか。
今年の立冬は十一月七日。内外ともに不穏な世相の中、おだやかな初冬の天候を期待します。
山田 喜美子
(俳諧史研究家、淑徳大学公開講座「芭蕉の『おくのほそ道』を読む」等 担当)
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(2012年11月02日)