生きている言葉 川口晴美
詩人は「きれいな」言葉しかつかわないのだろうと誤解されることもあるが、私の場合ぜんぜんそんなことはない。
俗っぽい流行語も好きで、詩に書くのはなかなか難しくても、普段の会話でタイミングがあえばウキウキとつかう。「無理」とか「微妙」とか、今まで普通に存在していた言葉に新しいニュアンスが加味されたのを、生まれ変わったような新鮮さで口にする瞬間は楽しい。
ネット上でも膨大な言葉がやりとりされているせいか新規な言い回しが次々あらわれ感嘆させられる。詩の言葉とは違うが、生きている人たちの蠢きの中から出現してくる生き物めいた言葉は魅力的だ。
このまえ電車に乗り合わせた年上の女友達が、ちょっとした集まりで思いがけない男性からしつこくされて嫌だったという話をした。上品な人だから口汚く罵ったりはしないけれど、よほど腹に据えかねたのだろう、3駅分かけて話すうちに眉間の皺が深くなっていく。ひととおり聞いてから、私は「○○(=男性の名前です)超ウザイ」と一言だけ返した。すると彼女の顔はぱあっと明るく軽くなり、「そう、そうなの、超ウザかったの!」と笑った。生きた言葉はそんなふうに人の気持ちのありように作用する。おそろしいこともあるけれど、面白い。
川口晴美(詩人・「詩を書こう」担当)
(2012年04月20日)