カラスなぜ鳴くの 中本 道代
去年の春ごろ、カラスの鳴き声が一段と騒々しくなっていた。家の前は遊歩道の公園になっていて、マテバシイの大木があり、その下に遊具があるのだが、そこに上がった子供が突然ワッと泣き出す、というようなことが続いた。カラスに頭をつつかれたらしい。また、家の猫と敵対しているらしく、見上げる猫の頭の上に、嘴で木の枝をポキポキ折って投げ落とす。ずいぶん強気なものだな、と驚いた。
けれど、騒がしいとばかり思っていた中に、時々グエグエガーガーと小さな声がいくつか重なって聞こえる。カラスたちがマテバシイのなかに消えると、その合唱が始まるようだ。雛が育っているのだ! 子供の頭をつついたのも、猫と闘ったのも、一生懸命雛を守っていたのだ、と気がついた。それからはグエグエガーガーを聞くのが楽しみになった。
そのうち初夏になり、ある日区役所関係の人が来ているなと思っていたが、その日から急に雛の声が聞こえなくなり、カラスたちもどこかに行ってしまったようだった。マテバシイを剪定するのに先立って、巣を撤去したらしかった。あの雛たちはどうなったのか、親のカラスは何と思っているだろう、といつまでも気になった。姿は見えなかったが、口々に叫びたてる幼いだみ声の合唱のかわいさが今も耳に残っている。
中本 道代(詩人・淑徳大学公開講座「エッセイを書く」担当)
(2012年04月06日)