経営学部開設記念公開講座が開催されました!
さる10月14日より、淑徳大学経営学部が来年4月に開設されるのを記念して、経営講座「環境変化に対応した経営戦略」のテーマのもとに、第一回の公開講座が開講されました。
当日は、来年から経営学部長になられる伊藤忠治氏をまねいて、「環境変化と産業構造改革」と題しまして、ご講演をいただきました。伊藤忠治教授は、長らく銀行に勤められ、シンクタンクでの経験と学会での活動を経て、大学で教鞭を執られるようになり、来年度の4月に、経営学部長に就任される予定です。
以下に、当日のご講演の一部をご紹介させていただき、新学部の経営学部の一端について、ご報告させていただきます。
尚、この講座は、引き続き、2講座がこれから開講されます。
【経営学部開設記念公開講座:報告資料】
第一回 『環境変化と産業構造改革』 平成23年10月14日(金)
伊 藤 忠 治 (淑徳大学教授)
Ⅰ.劇的に変化した日本経済の環境
1985年9月のプラザ合意以降、日本経済は戦後経済史に例をみないほどの大きな変化を経験した。80年代後半はバブル経済、90年代前半はバブルの崩壊、後半は金融機関の不良債権問題、超円高、金融機関の破綻、そして2000年代前半は金融制度改革、三大メガバンクの誕生、地域金融機関の合併・統合、後半はサブプライムローン問題、リーマンブラザーズの破綻、世界金融恐慌など国内外で世界史的な変化が生じた。
バブル期の5年間(1985~89年の平均)と2000年代初頭の5年間(2000~04年の平均)の日本の社会および経済状況は、以下のように大きく変化している。
(1) 社会情勢面
① 情報技術(ICT)の革新・・PCの世帯普及率 10.6%(1990年)→68.3%(2006年)
② 高齢化社会・・・65歳以上の人口比率 10.3%(1989年)→19.5%(2004年)
③ 貯蓄率の低下・・・家計貯蓄率 14.1%→5.0%
(2) マクロ経済面
① 証券市場の低迷・・・東証の株価上昇率 26.6%→ -11.8%
② 地価の下落・・・市街地価格 7.2%→ -7.1%
③ 消費者物価指数・・・インフレ率 1.2%→ -0.5%
④ 実質GDP増加率・・・経済成長率 4.8%→1.5%
(3) 金融情勢面
① 非金融法人企業の貯蓄投資差額(投資超過額)・・・18兆円資金不足→3.3兆円貯蓄超過
② 郵貯定額貯金金利・・・年利4.5%(1989年)→0.2%(2004年)
③ マネーサプライ増加率(M2+CD)・・・9.7%→2.3%
④ 政府債務残高・・・217兆円(1989年)→781兆円(2004年)
⑤ 金融機関数・・・3,714(1996/3)→1,814(2004/12)
(4) 雇用市場面
① パートタイム労働者比率・・・19.5%(1989年)→25.3%(2004年)
② 失業率・・・2.5%→5.0%
(5) 企業のグローバル化
① 製造業の海外生産比率・・・5.7%(1989年)→16.2%(2004年)
(6) 日本の経済的地位の低下
① 一人当たりGDPは世界・・・3位(2000年)→23位(2008年)
② 世界GDPのシェア・・・14.3%(1990年)→8.9%(2008年)
③ IMF国際競争力順位・・・1位(1990年)→27位(2010年)
Ⅱ.産業構造ビジョンの概要
経済産業省は、6月に産業構造審議会がまとめた「産業構造ビジョン2010」を発表。「産業構造ビジョン2010」では、「日本の産業の現状と課題」を分析。これを踏まえて、今後日本の産業が付加価値を獲得していくための方向性、大きな成長の可能性のある戦略分野、グローバル化する中で付加価値と雇用を獲得していくための横断的政策を提示した。
(1)世界経済に生じている4つの構造変化
① アジアを中心とした新興国の台頭に伴う、グローバルな需要構造の変化
② グローバル規模での「社会的課題」の拡大
③ グローバルな企業間競争の質の変化
④ 「新自由主義的」な政策思想の後退と「国内雇用」への関心の増大
このような世界経済の構造変化を背景に、日本経済は、「変化に脆弱な産業構造」「稼ぎに繋がらないビジネスモデルによる出遅れ」「魅力に欠くビジネスインフラ」という3つの課題に直面し、深刻な行き詰まりに直面している。
これらの問題を解決するためには、政府・民間を通じた4つの政策思想の転換が必要である。
① 産業構造の転換
② 企業のビジネスモデルの転換
③ 「グローバル化」と「国内雇用」の二者択一からの脱却
④ 政府の役割の転換
<産業構造の転換>
・従来の自動車依存の「一本足打法」から多様な「八ヶ岳構造」へ。
2003年~2007年の名目GDPの伸びの約半分は、自動車関連産業。
・付加価値獲得の源泉を、従来の「高品質・単品売り」から「システム売り」「文化付加価値型」へ。
・「従来の成長制約要因」であった、環境・エネルギーや少子高齢化を「課題解決型」へ。
今後は、5分野を戦略分野として特定し、集中的な支援を行っていく。 =傾斜生産方式
① 成長するアジアの所得水準の伸びに応じて市場の拡大が想定される
「インフラ関連、システム輸出」(水、原子力、鉄道など)
「文化産業」(ファッション、コンテンツ、食、観光など)
② 地球規模で解決すべき課題であって、わが国が先行してその課題に取り組んでいる
「環境・エネルギー課題解決産業」(スマートコミュニティ、次世代自動車など)
「医療・介護・健康・子育てサービス」
③ わが国の強みである技術力を成長につなげる
「先端分野」(ロボット宇宙など)
<企業のビジネスモデルの転換>
・従来の日本のモデルは、「技術で勝っても、事業で負ける」パターンに陥るようになった。
・「技術で勝って、事業でも勝つ」ビジネスモデルに転換しなければならない。
・従来の「垂直統合・自前主義で高度擦り合わせ」モデルを、モジュール化分業モデルに対応させる必要がある。
・政府は、企業側の事業戦略と一体となって国際標準化政策を進めるべきである。
・企業は、グローバル市場を見据えた「選択と集中」を断行し、政府は産業再編・棲み分けの動きを支援しなければならない。
<「グローバル化」と「国内雇用維持」の二者択一からの脱却>
・グローバル化の中でも、国内で付加価値を生み雇用を創出するためには、わが国の「立地の国際競争力」を高めるしか道はない。
・このためには国際水準をめざした法人税改革や物流インフラ強化を実現しなければならない。
・中小企業の海外市場開拓を国を挙げて支援していく必要がある。
<政府の役割の転換>
・世界では、「企業が国を選ぶ」時代がいよいよ本格化し、国家間の付加価値獲得競争は熾烈なものとなってきている。
・世界の成長分野が環境・エネルギー分野のような社会課題解決型産業にシフトしている。
・各国政府は、戦略分野の支援、誘致、売り込み合戦にまい進し始めている。 → 日本はその対応に出遅れた。
・日本は「市場機能を最大限に活かした、新たな官民連携」を構築しなければならない。
今後、日本経済の行き詰まりを打開し、再び日本経済を成長軌道に乗せていくためには、以下の役割を果たす必要がある。
① 戦略分野を特定して政策資源を適切に配分する役割
② 企業のニーズを熟知し、新たなビジネスモデルの選択を円滑化する役割
③ ビジネスインフラを整備する主体として、国家間の競争に対峙していく役割
④ 新たな官民連携のハブ機能を担う役割
Ⅲ.諸外国の産業政策の積極化
主要国が先例のない規模で、政府の支援や関与によって産業振興を積極化している要因。
(1) 先進各国において経済成長の制約条件が顕在化していること。
(2) 先進各国の急激な需要の減退に対して、「需要の創出」が政策上最も重要な課題と認識されるようになったこと。
(3) 新たな成長市場の拡大が期待される分野は、環境・エネルギーや少子高齢化といった社会課題解決型の分野が中心であること。
(4) 社会主義的市場経済国が台頭してきており、先進国側でも政府の新たな役割が求められるようになっている。
{例}
○米国・・・スマートグリッドを始め、太陽光、風力、次世代自動車(蓄電池)、省エネなどといったクリーンエネルギー分野に対して、政府支出を重点化している。
○英国・・・成長産業にターゲットを絞り重点支援を行っている。低炭素関連プロジェクトを支援するために基金を創設。
○シンガポール・・・技術革新企業に最長15年間の法人税免税、統括拠点への法人税減免、対象企業の人材育成などへの補助金支給。
○フランス・・・将来に向けて雇用創出効果の高い重点産業分野(デジタル、エコ・エネルギーなど)を決めて支援の重点化を図っている。コンテンツ開発、人材育成等を支援。新興革新企業や統括拠点への特別租税措置。
○ドイツ・・・太陽光発電をはじめ、環境・エネルギー分野への集中投資を加速している。
電気自動車のリチウムイオンバッテリーなどの22の研究開発プロジェクトに4,650万ユーロを支援。
○中国・・・自動車、鉄鋼など10大産業や文化産業を集中支援。ハイテク認定企業には軽減税率を適用。
Ⅳ.今後の戦略分野と具体的施策
1.インフラ関連、システム輸出
電力、水、交通、情報通信といったインフラ関連産業において、設計・建設から運営・維持管理までを含めた統合的な「システム」として受注する。システムとして受注・展開するために必要な高度な技術・ノウハウの獲得を通じて、我が国産業の高度化、付加価値の増大が期待できる。
主要11分野の世界の市場動向、国内外の企業動向を分析し、今後の目標・具体的アクションプランを提示する。(水、石炭・火力発電・石炭ガス化プラント、送電線、原子力発電、鉄道、リサイクル、宇宙産業、スマートグリッド・スマートコミュニティ、再生可能エネルギー、情報通信、都市開発・工業団地)
2. 分野横断的な施策
(1)わが国インフラ関連産業の国際競争力の強化
・インフラの運営まで含めて受注する体制の構築
・コスト競争力の強化
・技術開発の促進と実証事業の抜本的拡大
・日本企業のグローバル人材の強化
(2) 公的金融支援の強化
・対途上国市場への支援、経済協力政策の見直し
・対先進国市場への支援・・・協調融資の分野を拡大
・対途上国・先進国市場への支援・・・NEXI(日本貿易保険)の事業リスクの範囲を拡大
・年金基金・機関投資家によるインフラファンドの設立・投資支援
(3) 各国の計画策定段階からの協力と戦略的マッチング
・JETRO(日本貿易振興機構)の官民一体のプラットフォーム機能を活用
・省エネルギー・再生可能エネルギー分野の案件は、NEDOを活用する
・支援のパッケージ化・トップ外交の推進
・文化・教育、別の分野での技術協力・産業人材育成・パイロット事業などについても政府一丸となって支援を行う
・トップ外交の推進・・・首脳・政府ハイレベルでの会談等を活用した受注の働きかけ
(4) 海外展開を推進するための国際ルール対応
・事業の特性に応じたOECD輸出信用アレンジメントの緩和
・OECDルールを逸脱した公的輸出信用供与への対応
・気候変動問題への貢献を評価する新たなメカニズムの活用
・租税条約・投資協定の締結促進等の投資環境整備を促進
(5) 政府の推進体制の強化と体制構築
・経済産業省が中心となって民間企業や関係機関との連携を一層強化する
・支援策をパッケージ化し、トップ外交を活用して売り込んで
Ⅴ.所 見
・産学公金の連携を強化することで地域産業の活性化を促進できる
・中小企業は自立化して地域資源を、ICT(情報通信技術)を活用してニッチな市場を開拓する。
・中小企業は、「産業構造ビジョン2010」の戦略5分野へ積極的に挑戦する。
・地域金融機関は、ものづくりの企業が抱える経営課題を支援できる人材を育成する。
・金融機関と大学が連携し、大学の技術を企業に移転の仲介できる専門家を養成する。
以 上
<参考文献>
・経産省(2010)『産業構造ビジョン2010』経済産業調査会
・岡部光明(2007)『日本企業のM&A』東洋経済新報社
・中小企業ベンチャービジネスコンソーシアム(2010)『スモールビジネスハンドブック』BKC
・中小企業庁(2011)『中小企業白書』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
10月28日(金)午後7時より、「淑徳大学経営学部開設記念公開講座」の第2回が開かれました。
当日は、観光経営学科の学科長が予定されております廻 洋子先生より、「観光と地域振興」と題しまして、ご講演がありました。
その講演内容の一端をご紹介いたします。
第二回 『観光と地域振興』 平成23年10月28日(金)
廻 洋子 (淑徳大学教授)
はじめに
・ 社会の変化に従って人々の消費行動は変化する。観光需要も変化する
・ 需要が供給を変え、供給が需要を変える
・ 観光資源だけ、ホテルだけでは観光にはならない。観光は総合的に考える
・ しかし、神々は細部に宿る。細部こそ大切
・ 着眼は大局に、着手は小局で
1. いま、なぜ、観光なのか
1)世界の観光動向
成長する国際観光、2020年には15億人に
ツーリズムに熱心な先進国
躍進するアジア、太平洋市場
2)観光立国の意義と役割
高い社会効果
観光は魅力的な国のバロメーター、高まる文化の役割、国のソフトパワーのバロメーター
観光は経済の牽引力、観光経済のGDPは5兆5000億ドル、雇用者数は2億3400万人
世界各国GDPにしめる観光GDPは日本より高い
国内における旅行消費額は22.1兆円に上り、生産波及効果は48兆円
2.日本の観光市場動向
訪日外国人旅行者はビジットキャンペーン開始以降、リーマンショックが影響した2009年を除き増加してきた(東日本大震災で大きく減少)
訪日外国人旅行者の四分の三はアジアから
外国人旅行者受け入れ数は世界で33位、アジアで8位(2009年)
日本の海外旅行者数は足踏み状態
日本人の国内旅行回数減、滞在日数減
国内旅行の傾向は、個人化、2極化
3.観光地の動向
温泉地は供給過多
スキー場も供給過多
テーマパークは、勝ち組負け組が明確に
国内観光の課題は、
課題1 海外の観光地との競争
課題2 人口減少、観光地数の増加、
課題3.交通の発展で観光地の立地の優位性が変化
課題4.バブル期の過剰投資の宿泊業
4.観光と地域振興
1)観光を利用した地域振興に必要な視点
*観光振興には需要サイドと供給サイドの両面の視点が必要
*観光をトータルで考える視点
*観光はサービス業であるという視点、理解。
サービス業である観光の特性
観光の特性① 在庫が持てない
観光の特性② 立地に大きく依存する
観光の特性③ 人への依存度が高い
観光の特性④ 観光客の評価は主観的
観光の特性⑤ 観光客の質が観光地の質を左右
→ マーケティングの視点
2)地域観光振興に求められる知見
○マーケティング○ファイナンス○法務○ランドスケーピング・建築・ガーデニング○インテリア○デザイン○ホテル運営・飲食業○エンターテーメント○スポーツ○需要予測○旅行業○運輸業
5.観光を利用した地域振興の進め方
観光地の振興を実際に行っていく上では
1) 地域推進体制の構築
2) 観光地としての地域の精査と評価
現状を精査・把握(内部環境と外部環境、観光地の優位点、劣位点、コンペティター)、
精査のポイント:交通の利便性、宿泊施設、収容能力、気候条件、観光資源、イベント、
3) 観光地のコンセプトづくり(すべてのステークホルダーを巻き込んで)
精査の結果に基づきコンセプトを作成、
コンセプトを短く文章化(ポジショニング・ステートメント)
コンセプトは全員で共有
すべてのコミュニケーション活動はこのステートメントに沿って行う。
できればコンセプトを可視化する。
ゴールを設定し、プロジェクトチームを立ち上げる。
より多くの共感を集めることのできるゴールに。
4) アクションプランの作成
いつまでに、何を、誰が、どのように行うかを明確に
弊害、規制、行政や地元との調整も
アクションプラン作成の留意点
*誰が何のために、何を、いつまでに、いくらの予算でするのかを明確に
*何を提供するのか:観光地のコンセプトをベースに
*客はどこにいるのか:誘客圏、ターゲットの設定は大切である(地理的条件、交通、*旅行目的、参加形態の組み合わせ)
*客はいつ来るのか、いつに来て欲しいのか:季節を勘案する
*プロモーションは観光地のコンセプトに沿って
潜在客にどうやってアピールするか:PR活動
潜在客をどうやって顕在化させるか:販売促進活動、旅行会社や交通機関との連携
顕在化した客をどうやってリピーターにするか:観光地の魅力、上質なサービス
* 大切なインターナルマーケティング:地元の人々の共感、支援が不可欠
* 受け入れ体制の整備;交通機関の利便性向上、観光標識、観光地情報
6)アクションプランの遂行、管理【スケジュール・予算の管理、効果性、効率性の検証】
7)マーケティング活動
●観光地マーケティングの考え方
成功の鍵は3つのC
Convergence(集中)、
Continuity(継続)、
Coordination(連携)
●マーケティング計画
何の目的で、誰を対象にするのかを明確に
費用対効果の良いPRを活用。
専任のPR担当者を置き、誘致圏のプレスおよび旅行業界との関係を構築
広報活動を通じ
・ マスメディアの露出を図る
・ 旅行業者との関係を構築し、さらに企画を提案する
・ 交通機関との連携、周辺地域、他産業との連携を図る
さいごに
観光振興に必要なのは観光をトータルで考え、様々なサービスを総合・統括し、管理・運営することのできるプロデュース力、
観光をプロデュース、コーディネートし、牽引するリーダーの役割が重要
最後は やはり「ひと」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第三回 『会社を伸ばす広報戦略』 平成23年11月11日(金)
清 水 正 道 (国際コミュニケーション学部)
(2011年11月16日)