「幕末三舟の書」 栗原天路
勝海舟、高橋泥舟、山岡鉄舟の三人を「幕末の三舟」「徳川の三舟」あるいは単に「三舟」と呼んでいる。
年の順は海舟が上で、泥舟、鉄舟である。年の差は四・八・一歳で、海舟から鉄舟との差は十三に過ぎなく、同時代に徳川の幕臣の子として、みな江戸に生まれた。
頭山満は『幕末三舟伝』の中に、「海舟は智の人、鉄舟は情の人、泥舟に至っては、それ意の人か。」とのべているが、書の場合も同じであると思う。
海舟の作品は速筆が多くすっきりとした切れ味があり自在、泥舟は線が深く澄み骨格がある。鉄舟の作品は温潤さがあり、柔らかさあたたかさがある。
三舟ともみな活き活きとした線を引いている。古典を勉強しつくした上に、独自性のある作品に完成されている。
三舟は武道家として超一流で、海舟の剣は直心影流で免許皆伝、泥舟は槍の名人である。鉄舟は剣の達人、無刀流開祖を行った。
禅もしても、海舟は弘福寺で禅を、泥舟は浄土宗の僧に師事している。鉄舟は天竜寺の適水禅師に印可された大居士である。
三舟とも深く仏法を究めた達人であった。このような背景があったからこそ、歴史に残る作品が生み出せたのである。
栗原天路(書家・淑徳大学公開講座「総合書道」講師・「山岡鉄舟の世界」世話人)
(2011年09月20日)