すみつかれ 岡田 照子
友だちのガソリンスタンドに車のガソリンを入れに行った時、「今日は初午だけど、すみつかれ作った?」と、聞かれた。「家に鬼おろしが無いので作れない」と言うと、「おすそ分けするから持って行って」と奥に取りに行った。「鬼おろしがあるからあげる」と御主人も鬼おろしを取りに行った。
鬼おろしとは、大根などを大きく下ろせるように木枠の中に竹でデコボコが出来ていて、おろしが荒く出来るものである。すみつかれを持ってきた彼女は「今日は赤飯を作ってお稲荷さんに上げるのだが、作らなかったから、二の午にでも作ろうかな」と言っていた。
私は子どもの頃に、初午になのになぜお稲荷さんにお赤飯をあげるのか、不思議に思っていた。お赤飯を炊いてお稲荷さんに上げ、重箱に入れたお赤飯を前の家と後ろに家に持って行って、十円のおだちんを貰ってくるのが楽しみでした。
すみつかれも初午につくり、鬼おろしで大根と人参を下ろし、そこに節分の豆の皮をむいて入れたり、塩じゃけを焼いてほぐして入れて、お酢やお砂糖お醤油などで味付けをする。その家によって違い、夫の家ではお正月の塩引き(鮭)の頭を入れて、何時間も煮るそうだ。所によっては「しもつかれ」と言われ、関東地方の郷土食らしい。
私は結婚してから作ったことはないが、彼女はずっと地元に住んで両親と一緒だったので、毎年作っていたそうだ。「季節のものだから作っている」と言っているが、今はカレンダーに初午などの季節の行事が書かれていないものが多いので、つい見逃してしまう。バレンタインデーや節分には商業べースに乗せられて、チョコレートや恵方巻きを買う人が多い。恵方巻きは、転勤で奈良に行って初めて知った。関東ではそのような風習はなかった。その代り節分は年越しなので、年越し蕎麦を食べるところもある。今年は夫の実家から、義兄手打ちのそばが届いた。とてもおいしかった。次女のところも、舅手打ちの蕎麦が届いたと言っていた。
昔からの日本行事は、見過ごされている。彼女からいただいたすみつかれは、酢のもので、大根、人参を鬼おろしですり、皮をむいた節分の豆と細く切った油揚げが入っていた。
夕食に夫と一緒に、懐かしい味を味わった。
(2011年07月22日)