「お正月」中本道代
お正月は好きですか、と沢山の人に聞いてみたい。「好き」と言う人が多いだろうが、「あまり好きではない」と言う人も案外多いかもしれない。
私も子供のときからずっと「あまり好きではない」派だった。一言で言えば「辛気臭い」と思っていた。友達と遊べなかったから。
そして大人になってからは、大掃除や年賀状書きやおせち料理作りなどで大忙しの年末は、強制的に追い立てられて、否応なくお正月に向かって働かされているようで、憂鬱になっていた。
けれどいつか、お正月の中にはとても好きな時間があることに気がついた。それは、大みそかの仕事もすべて終わり、除夜の鐘が遠く聞こえてくるころ。日付は変わってもまだ真夜中のそのころは、去年と今年のどちらにも属さない時間のようで、時間の流れの外に出ているような気がする。それは気分の問題に過ぎないが、そんな時間があることで、人は生まれ変わることができる。
一年中均一の時間が流れているだけでは、疲れ切ってしまうだろう。
暗く静かなそんな時間が、お正月の核心なのかもしれない。
中本道代(詩人・淑徳大学公開講座「エッセイ」担当)
(2011年01月02日)