豊島新聞「東京歳時記」
東京のなかの江戸
東京の地勢をすべて歩いて体験することは、おもいのほかむずかしい。京都や奈良のような盆地ではなく、交通網と住宅街が拡大する都市空間だからだ。京都では、タクシーで端から端までいくことができた。東京では、どのようにタクシーをとばしても、幹線と幹線のひと区域を横断したり、結んだりするだけだ。
明治以後、東京の街は、震災と戦災と高度経済成長によって寸断されてきた。宮城を中心に、螺旋状にひろがるビル街や道路、同心円状にぬける地下鉄や水路や掘割がある。近代の四角い建築物の風景は、モダンの象徴であるが、いっぽうで都会のストレス源でもある。現代社会は、移動する交通と無意識的な生産が生み出した総和だ。それぞれの街角に、風景が残されている。四季折々の祭や催し物だ。『東京の空間人類学』を書いた陣内秀信氏は、ボートに乗って、水路をゆく。下町には、磯田光一氏が『思想としての東京』で語る、ひとびとの生活につながる民俗の風物詩がある。田沼武能氏は、写真集『東京の中の江戸』のなかに、江戸の風物詩を写し取った。前田愛氏の『都市空間のなかの文学』には、江戸へのつながりと近代を超える思考をみる。
現代は、グローバル経済の進展と東アジアの時代をむかえている。『江戸の想像力』によって、田中優子氏は、江戸時代の文化をグローバルな視点でとらえた。そこには、もうひとつの江戸への視点がある。
淑徳大学エクステンションセンター 岡本勝人
(2010年09月09日)