豊島新聞「東京歳時記リレーエッセイ」
重陽の節句の茶
中国では九月九日は、陽数である奇数の最大数、九が重なるので「重陽」と呼ばれ、この日は菊花を浮かべた酒を飲んで延命長寿を願うという習俗があり、「菊の節句」ともいう。
この季節に香る菊の花には、邪気を払うパワーがあると昔から信じられてきた。そして実際にも様々な効用がある。解毒、解熱、消炎、鎮静、眼病治癒など。
中国の食養生では、秋は身体のケアが大切な季節。
夏は汗となって出ていた水分が秋には身体にたまり、冬の冷えにつながるため、余分な水分や毒素を出す必要がある。そこで解毒作用のある菊花は、秋になると料理や茶の中に入れて取り入れられてきた。
そんな古からの生活の知恵を思いながら重陽の節句にいただくお茶には、やはり菊を。
そして器は、私の大好きな作家、須田菁華作、染付色絵菊童子ぐい呑を。
初代は北大路魯山人の陶芸の師である須田菁華は、現在四代。
登り窯から上絵付けまで赤松の薪で焚くという今では大変珍しい作り方で、用の美と、のびやかな絵付けが魅力だ。
菊花を入れた酒を飲み続けてどんどん若返り、とうとう子供になったという菊童子の伝説を描いたぐい呑に、白湯と菊花と蜂蜜で甘みをつけた香り高い花湯を淹れて。
淑徳大学公開講座「茶」講師 小澤千恵
(2010年09月07日)