豊島新聞 東京歳時記リレーエッセイ
思い出の秋の味
赤崎美砂(淑徳大学国際コミュニケーション学部准教授)
秋になり風の涼しさを感じるとお汁粉が食べたくなる。学生時代にそんな気分になると行っていたのが小田急線豪徳寺駅前の「オジカ」だ。駅前にあった半円形のロータリーの向こう、一段低くなったところにあるその店を年配のご夫婦が経営していた。ふっくら甘く煮えた小豆と白いお餅が浅めのおわんに入って出てくる。「オジカ」のお餅はいつでも柔らかかった。お餅の柔らかさ或いは甘さがそうさせるのか普段甲高くなりがちな女友達とのおしゃべりもこの店に行くとなぜか落ち着いた声になっていたように思う。
学校を卒業してから遠ざかっていたし、年月を経てそのご夫婦も引退されただろうと思っていた。ところが去年だったか、当時からの友人が「オジカ」に行ってきたという。先代の義理の娘さんが再開したのだそうだ。私も先日行ってきた。残された荷物の中から先代のつけていた材料ノートが出てきた頃、近所から商売の再開を勧められ、思案の末、奥さんが店主になり「甘味おじか」を開くことにしたという。
木肌をベースにした店内にクラシックが流れる中、久々のお汁粉を味わった。お餅が柔らかい。昔も今も毎朝搗くのだそうだ。先代は臼と杵を使っていたと聞いて、贅沢な時間を過ごさせていただいていたことを今更ながら感謝した。
(2010年03月03日)