三月の空き地
三月の空き地
中本道代(詩人・淑徳大学公開講座「エッセイ」担当)
いつも散歩で通る道端に、小さな空き地がある。空き地の奥はテニスコートの塀になっていて、あまり人の通らない道だ。
都内の住宅地に空き地は少ない。空き地があってもそれは今だけで、すぐに家が建てられるのだろうという雰囲気をもっているが、その空き地はもうずっと整地もされず、でこぼこのまま放置されている。わたしが好んでその人けのない裏道を通るのは、空き地に会いたいから。一瞬で通り過ぎてしまうような場所だけれど、心に小さな喜びが生まれる。何の用途もなく空いている土地というのは、今は珍しく、土地本来の姿を見るような気がするからだろうか。なぜなのだろう、と謎めいた感じがするのもいい。
夏のあいだ伸び放題に伸びた草が冬はそのまま立ち枯れているけれど、三月にもなるとみるみるうちにやわらかな緑があらわれて殖えていく。踊子草や仏の座など、可憐な花も顔を見せる。でこぼこの地面も緑に覆われると、隆起の豊かな山脈や平原のように見える。小さな土地も、複雑で広大な地上の風景を高いところから見ているような気分にさせてくれる。うち捨てられた自由な土地が、どこにもない輝きを見せるのだ。
(2010年03月01日)