東京歳時記 リレーエッセイ
春のティーカップ
小澤千恵(淑徳大学公開講座「ティー講座」担当)
今年も桜の季節がやってきた。桜の花見の風習は平安時代の宮中で始まったといわれている。
源氏物語の「花宴」には、御所での桜会の様子が書かれている。宴に招かれた源氏が、夜桜と朧月夜の美しさに感動していたところ、ある女性とすれ違い扇を交換する。この女性の扇の色目が、紅の上に白を重ね、地の紅色が透けて桜色に見えるという「桜がさね」だったことに源氏は感動し、持ち主である女性に惹かれていく。夜桜も、朧月夜も、「桜がさね」の色合わせも、淡くやわらかな印象の色彩であり、四季の移ろいを歌に詠んで楽しむ日本人ならではの繊細な感性が見出した和の美といえよう。
同じように日本人ならではの感性が生み出した、大倉陶園の「岡染め」という技法を使ったティーカップ、「左近の桜」をご存知だろうか。高温で焼成した生地に、日本人が古くから和食器で慣れ親しんできた色、染付を思わせる顔料で桜を描き再度焼成すると、顔料が釉に沈み、白く滑らかな生地に淡くやさしいブルーの桜があらわれる。
海外の陶磁器メーカーにはない、繊細で美しい色合いのこのティーカップには、やさしい味わいの和紅茶を淹れて、夜桜を眺めたいものだ。
(2010年02月26日)