豊島新聞リレー東京歳時記
『萌黄色の霞』
永島 直樹(演出家・淑徳大学「朗読講座担当」)
寒い日が三日続くと、やや暖かい日が一日ある。そんな感じ。
だが、春は確実に近づいている。丸裸をさらけ出していた近所の雑木林、よく見ると、木々が芽吹き始めている。椎の木、ケヤキ、コナラ、ブナ、などなど。
堅い芽の先がプッと開いて奇麗な萌黄色が見え始める頃、雑木林は霞がかかったようになる。
淡い淡い萌黄色の霞。この光景にお目にかかれるのはごく短い間だけだ。すぐに葉が大きくなり、緑が勝ってしまう。
この短い時期が好きだ。春の息吹……。
徳川家康が江戸を開いた頃、武蔵の国一面は沼と雑木林であったという。見渡す限りの雑木林が、萌黄色の霞に染められていたのだと想像すると、なんだかその霞に吸い込まれ溶け込んでいくような気がする。
(2010年02月19日)