東京歳時記 リレーエッセイ
東京駅の赤レンガ
東京駅が、平成になって、おおがかりな改修工事をすすめている。
日本の近代建築の開拓者である辰野金吾が設計した駅舎は、東京空襲で三階が焼けると改修されて再建された。戦後生まれのわたしたちが知る東京駅は、二階建てで八角塔のある赤レンガの風景である。
船が水路を走るオランダのアムステルダム。中央駅にたたずんで、東京駅のモデルといわれる駅をみた。今回の工事で知ったが、戦前の東京駅は、グリーン色の円筒型の屋根をもつ三階建ての駅舎だった。モデルとなったアムステルダムの赤レンガの駅とは実は異なった風景だ。おおくの利用客に親しまれた旧東京ステーションホテルも、駅舎のなかで新装あらたになるにちがいない。
フランス文学者の辰野隆は、辰野金吾の息子である。小林秀雄は、辰野隆の自宅文庫を「貸出し自在の図書館」として利用した。貴重本に線を引いたり、ページを切ったりしたが、恩師の辰野隆は、それを勉強している証拠とみて、貸し与えつづけた。小林秀雄だけでなく、鈴木信太郎、渡辺一夫、今日出海、三好達治、森有正などの優れた人物を育てた。
ツインタワービルを背景に、平成の東京駅は、大小のビルに囲まれて、おおくの利用客やビジネスマンが集る。まるで、辰野金吾や辰野隆の周辺に多くの才能ある人物が集ったようにである。
岡本勝人(淑徳大学エクステンションセンター)
(2010年02月10日)