お盆休みのころ
中本道代(詩人)
広島に生まれ育った私にとっては、八月と言えば何よりもお盆である。けれど、東京ではお盆は七月にするようで、もう長く東京に住んではいるが、七月のお盆はいつまでたっても馴染めない。お供えのやり方は土地土地で違うので、スーパーなどで野菜を盛ったお供えが売られていると、珍しくて眺めている。
お盆が七月でも、会社などでは八月の十五日前後をお盆休みにしているところが多いようだ。そのころ、人々は郷里に帰省したり旅行に行ったりするので、東京は何だかガランとしてしまう。どこにも行かないで、ガランとした東京にいるのもいいものだ。静かで、ひっそりとしていて、本当の東京に出会ったような感じがする。
お盆休みが過ぎ、人々が戻ってくるころ、もう空気が違っている。気温は相変わらず高くて暑くても、草が伸び放題というほどに伸びてはいても、光がいつの間にか変わり、黄金の色を帯びるようになっている。影はくっきりと黒く濃くなっている。八月の後半のつかの間であるが、ふと永遠を感じるような、悲しみさえも混じるような光の変化である。
八月は危険な月――何か、途方もないものが開示されるような気がして、心が騒ぐ。
(2008年12月29日)