秋の夜長は東方美人
小澤千恵(淑徳大学公開講座「器」講師)
秋の夜長の過しかたはさまざま。音楽を聞いたり、映画をみたり、読書をしたり。
源氏物語「鈴虫」の巻にもあるように、平安時代の貴族は、美しい虫の鳴き声を聞いて過ごすために庭に野を作り虫を集めたり、籠に入れて御殿の中で眺めて楽しんだりしたという。
私が銀座和光でバイヤーをしていた頃、秋によく売れた商品のひとつに、駿河竹千筋細工の虫籠がある。
駿河竹千筋細工は、徳川家康公が将軍職を退いて駿府城に入城した時、大好きな鷹狩りのために餌箱を竹細工で作らせたのが始まりで、菓子器や花器などを中心に駿府で伝わる工芸品だ。今日も、いわゆる日用品とは違う趣味趣向性が強い品が好評で、中でも虫のひげを痛めないという繊細で優美な曲線が特徴の虫籠は有名だ。中に入れる鈴虫やくつわ虫などの虫も竹で作られており、美しい声が聞こえてきそうな精巧さは秀逸だ。
秋の夜長に虫を愛でながらいただくお茶は、香りが素晴らしい台湾の「東方美人」を選びたい。茶葉にウンカという虫をつかせてその噛み傷と分泌物から香りを生み出す、いわば虫の力を借りて完成したこのお茶は、深まる秋を感じるのに最適だろう。
(2008年12月25日)