『武蔵野の原』
香道古心流 黒須 秋桜
先日、豊島区のオリジナル切手が販売され、その「すすきみみずく」の意匠
に目が留まった。雑司が谷の鬼子母神で、安産や魔よけとして昔から売られて
きたもので、薄の穂で羽毛感を出しながらうまく束ねられ、とても愛らしい。
武蔵野の薄がこんな形で息づいていた、と思えて妙に嬉しく、早速、インタ
ーネットで探すと、写真入で作り方が紹介されていた。作れそうだ‥。しかし
子供の頃は身近にあったはずの薄の原が、存外ないことに気付かされた。
かつて、「武蔵野は月の入るべき山もなし、草より出でて草にこそ入れ」と
詠まれ、その情趣は平安貴族に受け入れられて、絵や歌にとりこまれた。「山
より出でて、山にこそ入れ」があたりまえの都人にすれば、広がりへの憧れも
相俟っていたのかもしれない。江戸期の農地開拓で肥料の落ち葉を得るために
雑木が植えられ、武蔵野といえば「雑木林」のイメージに塗りかえられては行
ったが、それでも、あちこちに原は残っていた‥はずだった。
鬼子母神の「すすきみみずく」は、どこの薄で作られているのか‥。
河原へ足を伸ばせば、ありそうな気がする。集中豪雨情報に気をつけて、多摩
川か入間川あたりにでも出掛けてみようか。秋の一日、武蔵野の原を思いなが
ら、「すすきみみずく」作りに挑戦してみたい。
(2008年12月17日)