豊島新聞リレーエッセイ「東京歳時記」
実りの秋に想う
阿部啓子(ジャパン・ハーブ・スクール講師)
今年収穫されたブドウがワインとなり店頭に並ぶ頃となりました。発酵・熟成の期間が短くヌボーといわれるこのワインは清々しい味わいで食卓を賑わします。ヌボーは例外ですが、一般にワインは一年、三年、五年と熟成させた後飲み頃となります。
最近熟成ということを考える機会がありました。熟成の意味の一つに「 物質を適当な温度などの条件のもとに長時間置いて、ゆっくりと化学変化を起こさせること」とあります。個性をもったそれぞれの素材を同じ空間の中でゆっくり調和させると、旨味成分の詰まった味わい深いものが出来上がるのでしょう。熟成はよく人の味覚や嗅覚によって確かめられます。そこには化学では言い切れない月日が作りだす「何か」が作用しているようです。酒、味噌、醤油、納豆、チーズ等々数えてみると身近には十分に熟された美味しい食べ物がなんと多いことでしょう。旬を迎えるには時間が必要のようです。香りの世界では香水やポプリもまた月日を重ねて熟成されるものです。月日によって醸し出された深い香りは人を魅了します。良い香りに心も癒されることでしょう。
季節が変わり人々の足どりも早くなりました。訪れる機会が増えた池袋の街が懐かしい印象になってくるのは月日の効果と感じているこの頃です。
(2008年12月15日)