豊島新聞リレーエッセイ「東京歳時記」
衝撃から至福の時間へ
ヴェネツィアンアクセサリー講座、クロッシェ&ワイヤーワーク講座 講師:中村浩美
海外未経験の私が、ひょんなことから渡欧することになり、初めて降り立ったのがミラノでした。
朝もやの街を抜け、ドゥオーモ前広場に着いたとたん、そこに私は立ちすくみ、心臓がバクバクと波うつのを抑えられないでいました。端から見ていたとしたら、口をあんぐり開け、ボー然としていたことでしょう。私はドゥオーモの正面をぼんやりと眺めながら、その壮大さ、荘厳さに圧倒されていたのです。大教会全体を覆う建築デザインの細かいこと、そして上部には天を突く無数のれっ塔があり、そのひとつひとつには聖人が乗っている、いや彫刻されているのです。よくわからないなりにも身に迫るものがあり、これが今から700年も前に造られたものだと聞き、さらに衝撃を覚えました。こんな遥か昔の建物の前で、今を生きる人々が行き交い、集い、生活している…。脈々と続く歴史と共に、現代の我々が、ごく自然に、何でもないかのように、共存している…。イタリアって、なんていう国!
編集部の机の上で(当時私は雑誌編集者をしていました)ぐずぐずと悩んでいたことが、取るに足らないちっぽけなことだと思えてきました。なんて私は井の中の蛙だったのだろう!
あの興奮から、早や25年。イタリア行脚は30回を優に越えます。今は、1000年の歴史を持つヴェネツィアンガラスを使いながら、至福の制作活動をしています。
(2008年12月11日)