豊島新聞リレーエッセイ「東京歳時記」
「表装師の夏の宵の夢」
表装文化伝承支援協会理事 長谷部雄三
八月、“夏雲奇峰多し”と詩にもありますが、入道雲が夏の暑さを象徴しているように思えます。暑中、安らぎのひとときはと問われれば、宵の涼風を肴に冷たい一杯のお酒!そして、遠くから伝わる盆踊りの唄がかすかに聞こえればさらに嬉しくなります。また、秋を迎えるための季節であり、いろいろな展覧会の案内状をうけとる季節でもあります。
毎年、水墨画を描く友人から展覧会の案内を受け取ります。ある美術館で開催され、展示される作品も全て100号、200号以上と大画面の大作で圧倒されますが、展示場が広いので作品も大きくないと見栄えがしないという理由もあるとのこと、その友人に聞きました。「展示会が終わったら作品はどうする?」「まるめて家の隅に置いておくだけで、まず飾ることもない」とのことでした。一年かけて制作した労作が7日程の展示会で終わってしまうことに、何か勿体なく、釈然としないものを感じております。
私達、表装に携わる者にとって、掛軸という一幅の限定された面積にて制作された作品は、観る人にとって安心感があるようにも思えます。また、保存し易くそして何時でも鑑賞を愉しむことができる作品の制作を切に願っております。表装師の夏の宵の夢です。
(2008年12月08日)