豊島新聞リレーエッセイ「東京歳時記」
墨と黒と水の力
近藤祐康(書道一元会会長)
最近、国立上野博物館で「大琳派展」が開かれました。
琳派と言えば、日本美術史上、華麗さと装飾性に優れた流派です。今回の琳派展で特筆すべきは、やはり、宗達、光琳、抱一、其一の四人が時を異にして描いた、同一テーマの「風神雷神図」が同一会場に隣合せに陳列されたことでしょう。
この四者の作品を比較したところ、特に優れているのは宗達の作品でした。それは宗達の雷神の周囲を囲む雲が、水と墨と筆によって、実像の雷神に一段と動きを与えているからです。とりわけ、雷神の右手、風神の方へ向ってのびのびと蛇行する天衣の帯状の布は、水墨と黒によって濃淡に描きわけられ、まさに画竜に晴を点じた如く作品のスケールにより一段の生気を与えました。
画面構成の大きさが全く異なる鈴木其一の作品は別として、光琳、抱一の作品はこの点、重厚に過ぎ、だるささへ感じられ、作品の清澄さ、明快さに少しく欠くところがありました。
華麗な色彩と装飾性は墨と黒と全く対峙する存在です。宗達はこの相反する両者を画面上に思う存分対話させ、日本美術史上に新しい世界をきり拓いた先駆者と言えましょう。
(2008年12月01日)