豊島新聞リレーエッセイ
「地下鉄13号線物語」
星野英樹 淑徳大学国際コミュ二ケーション学部教授
副都心線と呼ばれる地下鉄13号線が今月、池袋と渋谷を結んだ。路線上の
大きな百貨店は集客のために大規模な改築を行っており、池袋も例外でない。
新しい鉄道が敷かれると、人の流れも大きく変化する。距離的にはたいして離
れていなくても、なぜか疎遠になっていた人と思いがけずに出会ったりするの
も、新しい路線の敷設や乗り入れが原因だったりする。
大学卒業以来、久しく会っていなかったある人と再会したのも、開通した直後
の有楽町新線の車両の中だった。いつの時代でもそうであろうが、学生時代、音
楽や文学、映画が世界の中心であるかのように熱く語り合ったその人も、すっか
り平穏な日常にとけ込んで幸せそうだった。
再会に感動し、上の空で近況を伝えながら、あの頃はいつもお気に入りのバッ
グにレコードや画集を入れていたっけ、など思い返しているうち、降車駅に着い
た。手にさげた買い物かごには晩ご飯の食材が入っていたに違いない。車両の中
を振り返ってみると、母親が親しげに話しかけていた見知らぬ人物をいぶかしげ
に観察する少女の瞳があった。
将来的には神奈川と埼玉を結ぶこの新線は、また、予期せぬ新たな出会いの場
となるかも知れない。
(2008年09月17日)