短歌の実作と秀歌鑑賞(5)
堅香子の花
田尻喜久子さん
防人が妻を詠ひし三毳(みかも)山いまも咲きつぐ堅香子の花
法被着し民草の曳く御用材伊勢路へ向けて六本木を往く
木曳車は冬の日に照り威勢よきエンヤの声に押されて進む
低木に多くはあらぬ花をつけ風衝岩にマメザクラ咲く
ロープウェイ吹き上ぐる風に窓揺れて花の群れ見ゆ緑の斜(なだ)りに
朽ちし葉
立花京子さん
石蕗(つわ)の黄は先に結びし霧雨を雫となして時を止めをり
頭垂れ本尊に真向かふ我が前を嫗ら群れて声高にゆく
夕陽背に間延びせる影は我を連れいつしか二人家前に立つ
七人の小人忙しく頭の中にカーンコーン働くMRI検査
太(ふと)注連(しめ)を抱えて急ぐ足元をつぶやきなして朽ちし葉走る
(2008年07月08日)