詩を書く(4)
晴れた週末の午後
辻井ゆうさん
点滅する青信号
スクランブル交差点をすりぬけて渡る
繁華街の入口
男がミニスカートの少女のあとを追いかけて何か言っている
白いハイソックスが小走りに消えた
カメラの前でVサインする制服姿の三人娘
男たちがとり囲む
前から歩いてきた水色のセーターにジーパンの若い女が
ふいに立ちどまり ためらいがちにわたしに近づいた
占いを勉強しているのですが お顔の相があまりいいので
・・・・・・
転換期ですね
・・・・・・
願いがかなう方向にいきますよ
ほんとうに?
女がうなづく
手相を見せていただけますか
わたしはそっと右の手のひらをさしだす
いい手相をしていますね
・・・・・いろんな人たちからまもられている
お父さん お母さん ご先祖さまにも
この線と この線がまじわって 十字になっているし
死んだ母そっくりの 細い首 細いまむし指
母はどんな手のひらをしていたのだろう
近くに話す場所があるのですが いらっしゃいませんか
(危ないなあ)
これから 神経痛の治療に行くの
それより あなたの手を見てみたいわ
わたしのなんか・・・といいながら
女は 両方の手のひらをさしだした
日差しに光る すべすべの肌 すっとのびた充ちた指先
やわらかなピンク色の 生まれたての花びらのような爪 (ずっと昔の わたしの手)
きれいな手ね
幸せでしょう いい勉強していて
・・・・・
あなたも ここにくるまでに 随分いろいろくぐってきたのでしょう
女はこまったように ちょっと首をかしげた
手相のお礼に歌を歌いたいんだけれど いいかしら
わたしはそっと あたりを見回す
手をつないだ二人づれがあるいていく
こちらを見ている人は だれもいない
私が兩手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のやうに、
地面を速くは走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。※
女がわらって 髪が揺れた
かえってゲンキをもらっちゃった
ありがとうございました
少しあるいて ふりかえる
女はいない
♪ わたしは急ぎ足であるきだす
※詩 金子みすず「私と小鳥と鈴と」より引用
(2008年07月15日)