詩を書く(3)
意味の問い
今泉秀雄さん
自分の一人だけでそれを持ち上げて
体の前面に掲げて行進する
その姿は閉じられた仕切りの中でしか
通用しない不換紙幣のようだ
本人は気附きもせず
遠い異国の地でさえも
有効な通貨だと言い張る
世の中に取り引きというものがあれば
彼はそれを忘れて
商品売り歩く飛び入りの迷子だ
「あ」と発して「お」と答えが返ってくるのを
「か」と決めてかかるところから擦れ違いがおこる
いつまでも続く平行線にじりじりして
引力の法則も無視して暴走する
一人の意味はどこまでも箱庭の樹々であり
山であり海であり地面だ
単一の回路を玩ぶだけ旋回して
その他大勢の集団から遠ざかる
折り合いをつけてから臨むべきだった
幸運を抱いて公開したコロンブスが
辿りついた大陸は絢爛豪華な
到達点だったのだろうか
新天地はいつも自分の真近にある
かと言って路地裏のおかみさんつかまえて
自己主張投げかけてみても着古した衣に
体中包まれて縮こまるのが落ちだ
意味は意味を消費する
小一時間彷徨ったあげく出くわす子供と
難無くうちとけて意味の交流が始まる
生まれたとの意味の尊さを知れ
まっさらな言語中枢さぐる仕草が
いまごろになって顔を出してくる
時代錯誤を信じた素直な紳士よ
おまえが叫ぶ意味は一つ残らず
そっぽをむかれ眼付き怪しい孤独の中で
無意味の城壁の城壁の築造に精出す寸法らしい
(2008年07月14日)